わっか屋本舗の巻
えっ、えんとつがクルマに?
直火焼きピザを車で売る男。
真っ赤なボディの天井に、飛び出たエントツ!先端からたなびく煙。これはもしや現代の蒸気機関車か?と思って、表にまわりこむと、そこはピザ屋であった。
根強いファン、リピーターを持つ薪焼きピザ移動車「わっか屋本舗」さんである。
通常、移動販売キッチンカーの熱源は、電気かガスがほとんど。一方でピザ焼きの理想、王道は、薪石釜に勝るものなし。生地の外側パリッと、中フワッ、もちもち。これが頂点。ならば、車の方を理想に近づけよう、と作りあげたのがこの車。改良を重ねた、苦心の作なのだ。
ご主人の児玉さんは、洋菓子の修行をしてきた料理人。冷凍の生地は使わない。毎朝、自分で打つ。余った生地も使い回さず。 一方、調理では、回転技を披露。客の目の前で生地を回し、遠心力で気泡を均一に残すように伸ばしていく。 これは単なるパフォーマンスではなく、ムラ無く焼き上げるための技なのだ。洋菓子時代の師匠の言葉を、彼は忘れない。 「おまえ、同じ料理の店が横に並んでいたら、何を見て人は通う? 店構え? 値段? やっぱり、味だろ」。 焼き付けられた言葉を胸に、彼は今日もピザを薪で焼く。柔和な笑顔の奥に、職人気質が見える。
よく見ると車体に、Aso Ubuyamaの文字がペイント。メイドイン産山。これは地元産へのこだわり。夕方に収穫した野菜を翌日に店でトッピングするのだ。「産山野菜をたくさん食べてほしいから」とほうれん草やチンゲン菜、夏はトマトをたっぷり載せるのが「わっか屋流」。馴染み客からは「今日の野菜はなに?」と聞かれることも。
こんなわっか屋本舗さんだが、当初は知名度もなく、「お好み焼きかい?」「じり焼でしょ?」と誤解されていた。けれど児玉さん、「似たようなものですよ」と笑って答えてきた。「ピザは庶民のためにある。洒落る必要なし」。だからこそ客が、「またアレをくれ」と通い詰める。真っ赤に燃えるボディに煙突。この車体は、彼の熱いハートと石窯の炎の色なのだ。
記者余談 :
わっか屋本舗のピザは本当に旨い。具たっぷりで、値段もSサイズで900~1,000円、Mサイズ1,500円とリーズナブル。
季節限定メニューも見逃せない。ほぼ毎週、産山役場前、高森・竹田フレインにもやって来ます。